小説『不倫の味』(中編)

はちみつ

 

今日はカレンと初めて外で会う日である。 

落ち着いて会話ができるよう職場から距離のあるファミレスが待ち合わせ場所になった。

 

俺の自宅から車で30分程度の位置にあるそのファミレスに向かっている途中、妻のことが頭をよぎった。

 

このことを知ったらアイツはどんな気持ちになるのだろうか?

嫉妬したりするのだろうか?

離婚に発展したりするのだろうか?

 

頭を軽く振って思考を止める。

 

どうでもいい。セックスレスだし、もうアイツは俺のこと何とも思っていないはずだ。

 

 

ファミレスに到着した。時間は16時55分。約束は17時である。

 

カレンに連絡をすると、先に到着して席も確保してくれているらしい。

きっと彼女は仕事できる人なのだな、と思うと同時に少し申し訳なく思った。

 

 

店内に入ると右手奥の方の窓際席にカレンがいた。こちらに気づき手を上げる。

 

こちらも反射的に右手を軽く上げてそちらへ歩を進める。

 

やはり綺麗だ。そして私服姿も雰囲気と合っている。

カジュアルな感じで、上が白、下が茶色のコーデが秋らしさを感じさせる。

おしゃれだ。

 

カレンに対し、先に来なかったことを軽く謝り席につく。

店員さんを招き、とりあえずコーヒーを2つ注文した。

 

砂糖とミルクの話題になる。彼女は両方入れるようだ。女性らしいと思った。

 

対して、こちらは両方入れないブラック派である。きっと男性らしいな、と思ってくれるに違いない。しかし彼女の表情から「見栄を張っているのでは?」と聞こえてくるようだった。

 

店員さんが再度やってきてテーブルにコーヒーカップを1客ずつ置いていく。

俺はその疑いを晴らすように自然な雰囲気でそのまま飲んでやった。

彼女はなぜか笑っていた。

 

そのあとは流行っているアニメやスポーツなどの話をした。

 

少し意外だったのは、彼女が政治、経済、国際情勢にも詳しかったことだ。

正直、全然ついていけない。頷くだけの俺にわかりやすく主要な点をレクチャーしてくれた。カッコイイなこの人。

 

負けじと、いやもう大差で負けているのだが、今朝仕入れた事件の話題を振ってみた。

 

彼女の表情が一転して暗くなる。

しまった。彼女は旦那さんからDVを受けているんだった。

暴力系の話題はNGだったか。


すぐ謝った。彼女は微笑み、首を左右に振った。

話題には気をつけなければ、と反省。

 

 

楽しい時間というものは過ぎるのが早いものだ。

時間は19時を回っていた。

 

料理を注文し、引き続き他愛のないことを話す。

 

歴史の話に話題が移る。

俺は三国志が好きだ。その話を振ってみたところ、彼女も中々に詳しかった。

ややマイナーと思われる、蜀の馬岱が魏延を切ったことまで知っていた。

 

聡明な女性は素敵だ。つい妻と比較をしてしまう。

 

あれ?なんで妻と結婚したんだっけ・・・と疑問が一瞬浮かんだが、頭を軽く振ってかき消す。

 

カレンはそれに勘付いたのかなんとも言えない表情を浮かべている。口元には微笑みを浮かべているが作り物か判断できない。

 

お互いの視線は窓の外に移動した。

 

 

食事を終えて店を出る。駐車場に向かって2人で歩き出す。

 

このあとカレンは真っ直ぐ家に帰ってしまうのだろうか。

まあ、残念だがそれも仕方がない。明日はお互い仕事である。学生ではないのだ。

しかし、一緒に食事をしてくれたのだ。少し期待してしまう。

いやでもあちらには旦那さんもいるしー・・・

 

頭の中は期待と不安が入り混じりカオスな状態であった。

 

横にいるカレンに目をやる。俺と同じように下を向きながら歩いている。

何となく気まずい。

 

俺は暗くなった空を見上げて口からゆっくり息を吐いた。

カレンの意思を尊重しよう。

 

ゆっくり歩きながら彼女が口を開くのを待つことにした。

 

 

つづく

(この話はフィクションです)

 



 

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